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2025.07.03
油外放浪記 第201回「”ほっとけ販売”の条件とは?」
年間営業利益が平均5,000万円に到達
いつものように、当社のSSの実績を、まず振り返ります(表1) 。

5月は営業利益が2,850万円(8店合計) 。前年より500万円近く伸びました。当社の決算は6月で、今期の営業利益目標は4億4,100万円ですが、あと1カ月を残して到達しました。
1店当たり平均で、年間営業利益は5,000万円を超えます。感慨深いものがあります。
「安定的に5000万円が上がるSS業態を作りたい、作れるはずだ」と、決心したのが10年前の2015年。当時の直営は5店、1店当たり営業利益は
1,200万円/年でした。2018年度から2020年度にかけて店を増やしたので、その経費が利益を圧迫しました。仲町台店が単独で5,000万円を超えたのは2021年。このやり方を他店にも移植します。
2023年度からは大きな投資もなく、マネジメントの強化に注力しました。こうして今期(2024年度) 、平均5,000万円を超えることができました(グラフ1) 。

平成の若者が昭和ノスタルジーに付き合ってくれる
嬉しいことはもう一つあります。
燃料油の販売量が、3カ月連続して伸びています。
当社はかつてガソリンの販売促進企画で名を馳せ、会社の礎を築きました。多くの石油販売事業者様と交流させていただく中、私のDNAには昭和世代のSS経営者魂が植え付けられたようです。
1995年からは自前でガソリンスタンドを運営する立場となりました。やはり、必ずガソリン販売量に目が行きます。
「モノクレ」でL当たり5~7円の販促費をかけ、1店で500kl以上を販売していた時代です。ほどなく、ガソリンに販促費がかけられない時代となりました。ガソリン販売量と営業利益には何ら相関関係はありません。
頭では理解しています。しかしこれはもう習性です。今も販売量の数字を見ては、密かに一喜一憂しています。
・・・が、そんな私のこだわりに、最近はSS運営本部のスタッフが寄り添ってくれるようになりました。2019年度に増販したやり方を、再強化してくれています。
すなわち、車番認識システムが新規客の来店を知らせると、スタッフが駆け寄ってリスト(個人情報) をとり、LINEのお友だち登録を勧めます。実に地味で、効果の見えにくいオペレーションですが、販売量はジワジワ回復傾向にあります。本当にありがとう。
知らぬは社長ばかりなり
さて、本稿の主題である「油外」に話を移します。
車検は、前年プラス82台の1,417台。基本料金の値上げ効果もあり、850万円増収の6,200万円となりました。月間記録を今年も更新しました。
レンタカーは120%の成長。コロナが明けた2023年2月以降、22カ月連続して月間ギネスを更新しています。
SSレンタカーは、めったに業績が下がりません。スタッフの能力に負わず、車の品質が集客力を上げ、リピーターを蓄積するからです。
最初は知りませんでした。
当社がレンタカーを始めたのが2008年。20万円もしない中古車をラインナップしました。これは経費を抑えようというよりも、私の狭い経験値によります。
「どんな新車も、登録した瞬間から中古車となる。国産車なら、欠かさずメンテナンスしていれば20~30万キロ走る。現に、私の自家用車は何ら不自由がない」—。大きな誤解でした。
車の部品は3万点に及びます。まして、電装部品など劣化度を目視や測定できない部品も多くあります。ですから、どんなに点検しても、故障や不具合は、必ず生じます。
自家用車なら「しかたない」と受け入れます。修理しようか、買い換えようかと考えます。
レンタカーはまったく違います。知らない土地で途方に暮れながら、貴重な旅行体験や、大切な人とのかけがえのない時間を、台無しにされた憤りがふつふつと沸きます。その怒りはハンパではありません。
しかし、SSスタッフは無力です。取り返しようのないクレームに、ただただ平謝りするしかありません。スタッフの精神は蝕まれていきます。
・・・にもかかわらず、店長は、口が裂けても「クレームが嫌です」とは言いません。言ったところで「どんな商売でもクレームはつきものだよ、それも店長の仕事」と返されるだけです。
ですから店長は、そっとレンタカーに予約が入るのを止め、車を処分するようになります。
8千万円ビジネスが8年で6億円に急成長
ある日、仲町台店に赴任して間もない店長が、社長に直訴してきました。
「レンタカーは、もっともっと大きな収益源になると思います。それを阻んでいるのがクレームです。クレームが諸悪の根源です。ぜんぶ新車に入れ替えていいですか。費用はかかるかもしれませんが、利益も増えるはずです」。
言われて初めて気づきました。わが社の店長たちがレンタカーの稼働を止めたり台数を減らしているのは、そういうことだったのかと。
と同時に、この気概ある若者(仲町台店店長) の提言を、直ちに承認しました。
「やってみなきゃ分からないことは、やってみよう」が私の信条です。かくして2016年7月から、仲町台店のレンタカーを、ごっそり新車に入れ替えました。
直ちに効果が出ました。クレームがなくなっただけではありません。まとまった数の固定客がドンと増え、売上は倍増しました(グラフ2)。

やっていくうち、固定客のつきやすい車種や適正なラインナップも分かってきました。この方法論を仲町台店の頭文字をとって「Nメソッド」と名付けました。そして、仲町台店店長を「Nメソッドコンサルタント」に任命し、他の店にも一斉に普及してもらいました(グラフ3)。

先に述べたように、レンタカー事業は人の能力や設備力に負いません。経営者の意思決定と店長の行動力があれば、すぐ改善します。こうして年間8,200万円だった当社SSのレンタカー収益は、わずか8年で6億を超える商材に急成長しました。
なお「Nメソッド」は、当社が主宰するFC店にも普及させているところです(Nはニコニコレンタカーの頭文字に変更)。特に「Nメソッド」を体系的に学び、実践し、結果を出すための年間体験プログラムには、参加店数が年々増えており、多くの店が「即効」を得ています。ニコニコレンタカー全体も確実に変化しています。全国のFC店が保有する2万台超のレンタカーのうち34%の車齢が「4年未満」へと若返りました。
「ほっとけ油外」を試行錯誤
次に車販です。
5月の販売台数は227台。前年比マイナス44台と相変わらず低迷中です。車検やレンタカーは絶好調なのに、車販がうまくいかないのは、なぜでしょう?基本に立ち返って考えてみます。
私は若い頃から「セールス」が苦手でした。ですから八百屋やスーパーのように、店に陳列すればお客様の方から買いに来てくれるという販売方法に執着してきました。お客様が本当に必要とする商品を用意すれば、自然に売れるに違いありません(「ほっとけ販売」と称しています)。
たとえば、エンジンオイル。給油しながらボンネットをけ、オイルの汚れを見て、交換を勧めるなんて、やりたくないし、やらせたくもない。そこで「世界のオイル大集合!」と銘打ち、国内外のあらゆるブランドオイルを仕入れ、SSのセールスルームに陳列したものです。
しかし、まったく売れません。そのうちオイル缶が錆び、二束三文で処分する羽目となりました。
「窒素ガスを入れたらタイヤが長持ちする」と聞けば、これぞ顧客の求める商品だ!
すぐに充填機を仕入れよう。--しかし、まったく売れません。
「トラベロウ」なる旅行の自動販売機を入れたこともあります。洗車待ち、車検待ちのお客様に対して、大きな機械をこれ見よがしに設置しましたが、まったく見向きもされません。機械を処分するにも、かなりのお金がかかりました。
SSで「靴修理サービス」をやったこともあります。西ドイツ(当時)製の高価なマシンを導入して、職人さんを雇い、さあいらっしゃい。--
蓋を開けてみれば、1日1件がやっと。1年間頑張って芽が出ず、撤退。
まったく穴があったら入りたい。10個くらい穴がほしい。きっと他のSS事業者さんは、高みの見物をしながら「またMICの増田がバカなこと始めたぞ」と鼻で笑っていたことでしょう
油外を「仕組み」で売る
どうやったら、セールスせずに売れるのでしょう。マーケティングの教科書にその回答を見つけました。
【売れるための3要素】
➊マーケットバリュ(MV)
いわゆる商品力です。品質、価格、利便性、納期といった要素を、競合店、競合商品に対して明快に優位なものにしておきます。
➋ペネトレーション(P)
「浸透」という意味です。すなわち商品の存在と商品力を、お客様に認知してもらわなくてはなりません。エリアマーケティングにおいては、商圏内に徹底告知し続けます。
➌リマインド(R)
「思い出させる」という意味です。上記の告知をしても、お客様のニーズは四六時中、顕在化しているわけではありません。すぐ忘れます。
しかし、タイミングよく「必要ですか?」と伝えると「あっそうそう、これね、買います」と意思決定してくれます。こうした枠組みを構築せず、思いつきで取り扱っても失敗しますよ、ということです。
「これだ」と思いました。たとえばガソリンは、元売ブランドが品質を保証してくれます。価格は店が設定しますが、高ければ売れません(MV)。
いつも通る道路に面して、元売マークや価格看板が、これ見よがしに掲げられています(P)。
「もうすぐガソリンがなくなりますよ」と車が警告してくれます(R)。
だから、セールスしなくても売れます。当社の車検が売れている理由も合点がいきます。
まず、コバックやホリデー車検などの量販チェーン店をよく調べ、当社の商品力を構築し、商品ブランドを「ニコニコ車検」としました(MV)。
この商品力を店頭POPや商圏内に告知し続けます(P)。
商圏告知は、以前は折込広告が主流でしたが、今はインターネット広告やLINEに重点が移っています。入庫1台当たり1万円くらいの販促費(CPO)
をかけています。そして、車検満期が近くなったお客様に対しては、店頭では声掛けし、商圏内にはミラーリングで、リピーターにはEメールや
DM、電話をしています(R)。
MVが高くPが浸透しているほど、SSスタッフやコールセンターからのリマインドに、ニつ返事で買ってくれます。レンタカーも同じです。品質は何とか大手と肩を並べ、価格や利便性で優位に立っています(MV)。
全国1,500店の店頭看板やインターネット広告で認知してもらっています。ブランド認知度は全国平均50%を超えました(P)。
(R)は、お客様が自ら実行してくれます。つまり買い物、送迎、荷物運び、レジャー、観光、出張などの際に、レンタカーという移動手段の選択肢を思い出していただいた方が、予約してくれます。
これまでの方法が、車販に通用しない
車販も同じ方法を採りました。
しかしどうしても、(R)がうまくいきません。
車検と比較してみましょう。リマインドすべき頻度が、車検は2年に1回、車販は数年~十数年に1回。リマインドのタイミングは、車検ははっきりしています。しかし、車販はいくらお客様を見ても車を見ても、分かりません。お客様自身もぽんやり考えています。
そして何より、支払い金額が違います。車検は10万円前後、車販は100万円単位。リマインドされたくらいで意思決定できる金額ではありません。販売担当者の人格や商品知識が強く求められます。
現実に当社のSSは、販売担当者の数、練度、意欲によって、販売台数が大きくブレました。読者の皆様は「何を今さら?」とお思いかと思います。セールスの苦手な経営者が、これまで避けてきた問題に今、直面しているところです。