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増田信夫の油外放浪記  MIC社長増田信夫 第71回 「インターネットで車検を増やしたい」

最初は呑気にやっていた

前月号の本欄で「車検を販売するのはトップの仕事だ」と述べ、当社が実行した方法と結果を紹介しました。今回はその続き。インターネットで車検を販売してきた顛末をご紹介します。

振り返れば、当社が車検販売の一助になればと考え、ホームページ(HP)を開設したのは7年前です。

当時、100万円くらいあればいっぱしのHPができるだろうと安易に考えていましたが、結局300万円を費やしました。
よしッ、これで車検がどんどん獲れるだろうと思いきや「いやいや社長、HPを開設するだけでは不十分。このHPをたくさんの人に見てもらわなければ意味がありません」とHPを制作した業者に言われました。

そりゃそうだ、ということで毎月30万円くらいの販促費を投入することにしました。
HPを見てくれる人のことを「訪問者」と言いますが、訪問者数を増やすのも、SSの来店客数を増やすのと同様、販促費が掛かります。いわゆるSEM(サーチエンジン・マーケティング/検索エンジン販促)という手法です。
その結果、毎月3,000人ほどの訪問者数を得ることができるようになりました。

ところが「冷やかし」の訪問者が何と多いことか。SSなら来店客は100%購入客ですが、HPは訪問しても、ほとんどの人がちょっと見てはすぐに立ち去ってしまいます。
せっかく訪問してくれたのだから、長く滞在してあちこち見てほしい、そして「お見積もりはこちら」と書いたボタンをクリックしてほしい、そう思い試行錯誤を繰り返しました。

お見積もり依頼ボタンをクリックしてもらうことを「コンバージョン」と言いますが、その甲斐あってコンバージョン数は何とか月90件になりました。訪問者数の3%です。
HPからコンバージョンが入ると、ここからは人手が掛かります。見積もり書を作成して返信し、さらに電話フォローをして受注します。
こうして入庫する車検は月30台。

毎月30万円をかけて3,000人を集客し、30件の車検が売れたということです。車検1台獲得するための販促費(CPO)は1万円、これに対して車検1台当たりの粗利は当社の場合4万円です。「1万円の費用で4万円の収益なら、まあ悪くないかな」と呑気に考えていました。

なぜ興味をいただいたお客様の
3分の2が断っているのか

さて昨年、車検を倍増しようと、すべての活動を洗い直しました。
HPも例外ではありません。まず気になったのは、コンバージョン数が毎月90件もあるにもかかわらず、30件しか入庫しないことです。

見積もりを依頼するお客様は、「少なくともHPはよく見てくれた。そうすれば、当社の車検が他店にひけをとらないことをお分かりいただけた。さらに、見積もり書を見ていただければ、どこよりも安い金額が提示されていた」はずです。
にもかかわらず、なぜ残りの60人は当店を選ばず、他店を選んでしまったのでしょうか。

コンバージョンに対応するのは事務のパートさん。彼女に尋ねてみると「見積もり依頼が入ると、早ければ、当日中に返信しています。遅くとも3日以内に、平均すれば24時間以内に確実に返信していますね」と、胸を張ります。私は驚きました。
24時間もかかっていては、圧倒的に遅いのです。

店を選ばれたら、他の店はすべて負け

私がかつて暮らしたことのある静岡県久能海岸の石垣イチゴ狩りの光景を思い出します。
シーズンになると、何十軒ものイチゴ農家が一家総出で沿道にずらりと立ち並び、観光客を呼び込みます。 年端もいかない娘さんに化粧を施し、ドライバーに対して精一杯の愛嬌を振りまく姿が印象的です。

しかし、お客さんは1つの農園しか選びません。
ひとつを選んでしまったら、もう他に行くことはありません。

ネットショッピングもリアル店舗と同じでしょう。せっかくお客様が「興味がある」「買いたい」と言ってくれているのに、24時間も放ったらかしにしていれば「優先商談権」が失われるのは当然です。

生き馬の目を抜く中古車買取り業界

ネットショッピングは指先のクリック1つでたくさんのお店にコンバージョンできますから、なおさらです。レスポンスは1分1秒を争います。

以前、当社が運営する中古車買取店の店長から「買取一括査定サイトを利用したい」との申し出がありました。
クルマを売りたいと考えているお客様がそのサイトの「一括査定」ボタンをクリックすると、登録企業8社にその情報が流れます。
店長いわく「コンバージョン情報は1件2,500円ですから、50件のコンバージョンに対して1件以上成約すれば、損はありません」。私は「じゃあやってみなさい」と許可しました。

数カ月後、店長に様子を聞いてみました。「コンバージョンは入るのですが、まだセールストークが慣れていないので、なかなか成約できないんです」とのこと。

そこで試しにそのポータルサイトにアクセスし、自分のクルマを入力して「一括査定」ボタンをクリックしてみました。数分後、1社目から電話が来ました。1時間もすると当社を除く7社すべてから連絡が来ました。
しかし、当社から電話があったのは翌日でした。

ゲームが終わり、閉会式も終了し、お客様も帰ってしまったグラウンドに、1人ポツンと登場した間抜けなチームが当社だったのです。
セールストーク以前の問題です。レスポンスが遅すぎて、これでは百戦百敗するのは当たり前です。

店長に指摘すると「朝から晩までパソコンとニラメッコしている余裕はとてもありません」とのこと。放っておいてもお客様がやってくるSS業界に比べ、他店を出し抜くことに懸命な買取業界の熾烈さが垣間見える思いがしました。直ちに当社は、そのポータルサイトから撤収しました。

最近、大手買取チェーンに勤務していた人にどうやっているか聞いてみたところ、素早いレスポンスの秘密の一端が判明しました。

①ポータルサイトからのコンバージョン情報は、
 チェーン本部の情報センターが一括して受ける。
②情報センターには多数のオペレーターが待機しており、
 当該エリアの店舗にすぐ電話連絡する。
③店舗は電話を受けると、すかさずお客様に電話する。

コンバージョンを受けてからお客様に電話するまで「3分以内」と義務づけられているそうです。
こうしたシステマティックなバックアップ体制ができている競合会社と、徒手空拳の当社では、戦う前から勝負はついていたと言えるでしょう。

毎月500台をネットでゲットしたい

さて車検に話を戻します。
専用ポータルサイトに比べると、独立したHPからのコンバージョンなので、レスポンスに24時間かかっても30%入庫することができたのだと思います。
でも、お客様の多くは、いくつか車検サイトをネットサーフィンして、あちこちクリックしているに違いありません。
そこで速攻レスポンス体制に改善しました。

事務スタッフ任せにするのではなく、セールス能力の高い社員に専用ケータイを持たせ、コンバージョン情報に対し、即座に電話するように仕組みを変えました。

その結果、コンバージョンに対する入庫率は50%に改善しました。
と言うものの、月間コンバージョン数がたった90件では、入庫率を50%に改善したところで、たかが知れています。

そこでコンバージョン数を月間1,000件にしたいと考えました。そうすれば月500台の車検が獲得できます。
その目標を次のように掲げました。

  ①訪問者数を3,000件から 1万件に伸ばす。
  ②コンバージョン率を3%から10%に伸ばす。

3倍増を狙って100倍返しされた

まずは訪問者数を1万件にするための作戦です。
車検の名称を「ニコニコ車検」と親しみやすく覚えやすいものに改め、さらに、目を惹き印象づけるため、車検料金も「1万円ぽっきり」としました。
「1万円ぽっきりのニコニコ車検。詳しくはwebで」-インパクトのあるキャッチコピーですね。これを町のあちらこちらに掲示すれば、どんどん訪問者数が増えるに違いありません。

そこで思いついたのが、市バスのボディーに看板を掲示するというアイディアです。町中を毎日走り回ってくれますから、多くの人の目に触れます。
近隣の地下鉄駅にも看板を出しました。

当社SSの商圏は、横浜市の北部にありますが、横浜市全体では300万人以上が居住しています。そこから1万件の訪問者が得られると、十分期待していいでしょう。
でもそれだけでは飽き足らず、地下鉄の車内ドア横にも広告を出しました。広告費は毎月100万円。車検をたった25台増やすだけで元はとれます。
さあ、どうなったでしょう。

何と、訪問者数はたった500件しか増えません。月間3,500件止まりです。
背筋が凍りました。
車検を実施していただいたお客様に「バス、駅、電車の看板やポスターを見ましたか?」とアンケートで聞きました。「はい」と答えたのは、月にわずか5~10人でした。

3倍の集客を狙い毎月100万円を投じて、100倍返しを食らったようなものです。
社長である私が全社員に大見栄を切って「車検を倍増させてやる」と息巻き、その結果、販促費をドブに捨てたとなると面目が立ちません。

そこで軌道修正しました。交通広告をやめ、インターネット販促に切り替えました。これはPPC広告といって、「車検」の情報を求めるユーザーに対し、当社の車検広告が表示されるものです。

その結果、訪問者数は月6,500件に改善しました。目標件数にまだ届きませんが、まずは「倍増」でよしとしましょうか。
交通広告が効かなかった理由を改めて考えてみました。普段の生活では誰も車検になど興味がない、ということなのでしょう。
楽しいこと、好きなことには反応するが、楽しくもない車検には誰も関心を寄せません。四六時中、車検のことばかり考えている私と一般生活者の間には、意識の大きな隔たりがありました。
そう思うに至り、高い授業料を払わされたと反省しています。

「できないものはできない」ということもある

もうひとつのテーマは、コンバージョン率を3%から10%に引き上げることです。
どうすればよいか、皆目検討がつきません。

そこでプロのコンサルタントに頼みました。国内屈指のwebマーケッターです。毎月コンサルティングをしてもらい、彼の言う通りHPを継続的に改善してきました。
その結果、1%改善しました。どうやらコンバージョン率4%が限界のようです。
「コケの一念岩をも通す」。私の好きな言葉ですが、いくら念じても無理なこともあるのかなと思います。

現在インターネットによる車検販売は、月間130件(年間1,500台)で推移しています。

かなりの時間と労力とお金をかけた割りには物足りませんが、それでも車検1台獲得するための費用(CPO)は5,400円にまで改善しました(表1)

折り込みチラシのCPOは1万円強ですから、その半分の費用で獲得できています。
新聞の購読率が減少傾向にあり、逆に、ネット利用者が増加していることを考えれば、HPは今後ますます有望な車検獲得手法になるでしょう。

車検ポータルサイトはダメもとで出店するべし

ついでに、車検のポータルサイトにも言及しておきます。
中古車買取と同じく、車検も同業者が集合して出店するショッピングモールのようなサイトがいくつかあります。
モールサイトの運営者はあの手この手を使って大量の集客を狙います。ユーザーにとっては自分に合った車検業者を選びやすいメリットがあります。
そして、車検業者はローコストで見込み客情報が得られます。

最近、初期費用も出店料も一切かからない車検ポータルサイトが増えました。コンバージョン1件に対して2,000円とか3,000円を支払えばよいという、いわば成功報酬型です。
リスクがありませんから、当社は5つのポータルサイトに出店しています。

でも、そこから入庫するのは1サイト当たり月に1~5台です。取るに足らない数字に見えますが、まとまるとバカにできません。
「ヘタな鉄砲、数打ちゃ当たる」と割り切り、SS事業者の皆様もいろいろ試してみることをお勧めします。

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