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増田信夫の油外放浪記  MIC社長増田信夫 第64回 今さらながらSSは「人」だと痛感

売れども売れども楽にならない

縁あって、SS業界のマーケティングに携わるようになってから28年になります。
当時、SS店頭を給油や洗車で忙しく走り回るスタッフに対し、さらに販売ノルマが課せられ、誰が買うか分からない商品を闇雲に声かけしている状況を目の当たりにして、何とか販売活動の効率化に寄与できないかと考えたものです。

顧客分析も商品分析もなく、目標管理だけがあって無理な売り方をするから疲弊する。もっと楽に自然に売れる方法はないものかと試行錯誤を繰り返し、15年前に辿り着いたのが 「MV・P・R」という考え方でした。この3つの視点から販売活動をチェックし改善すれば、洗車もオイルもタイヤも、何でもよく売れることが分かりました。

やや理屈っぽくなりますが、今回はまず、この「MV・P・R」について述べます。
①「MV」は、Market Value。
すなわち商品価値です。他店に負けない競争力を持った商品(サービス含む)を開発しなければ売れません。これはSSでなく会社の役割です。つまり会社は、売れる商品をSSに与えてやらなければならないのです。

②「P」は、Penetration。
すなわち商品価値の告知浸透です。競争力の高い商品を、SSの商圏客や来店客に対してきちんと知らせなければ売れません。そのための広告宣伝予算の確保や販促の企画、広告物の制作など、これも会社の役割となります。

③「R」は、Remind。
すなわち思い起こさせることです。競争力の高い商品があり、狙うべきターゲットがこれを認知すれば、「よし、次はここで買おう」と思ってくれます。そんなお客様が、SS店頭でタイミングよく意向確認されれば、「そうそう、買おうと思っていたんだ」と思い出し、購入してくれます。これはSSスタッフの役割です。

つまりSSスタッフには、そのタイミングが到来したお客様に、しっかり意向確認することが求められます。ただし気をつけるべきは、「R」はRecommend(お勧め)ではなく、Remind(思い出させる)だということです。ましてや、「説得」でも「押し売り」でもありません。

ですから、SSスタッフがきちんと意向確認しても売れないのは、「MV」や「P」がまだまだ弱い。すなわち、本社がその役割を果たしていないと考えるべきなのですーと、私たちは本社とSSの役割分担についてその重要性を口を酸っぱくして主張し続けてきました。

当社の直営SSでも鋭意実戦してきました。重点商品である「車検」にはふんだんに競争力を盛り込み、メディアミックスで商圏・店頭で告知浸透させ続けてきました。レンタカーなど、お客様の方から求めてくれるような強力な商品も開発しました。
また「車番認識システム」を開発導入することによって、販売のタイミングが適した顧客の来店をスタッフに知らせ、その行動量をマネジメントできるようにもしてきました。

いくら訓練された兵士でも竹槍しか与えられないのでは戦えません。むしろ最新鋭の武器と正しい戦術を与えられた方が、「にわか兵士」でもそれなりに戦えるのです。
果たして、これらは一定の成果が現れました。どうにか1SS当たり毎月1,000万円近い油外粗利が得られるようになりました。

ところが、営業利益がなかなか伸びないのです。粗利益の増加に伴って販売経費も増加するというもどかしい状態が続いています。どうも販売効率が悪いのです。


コストパフォーマンス悪化の原因

その大きな原因として、油外購入客に占める新規客の構成比が高いことが上げられます。
例えば車検。当社は昨年来、車検の大拡販に努め1SS当たり月間120台を獲得するようになりました。そのうちリピーターはどれくらいかと調べてみたら、何と3割にまで落ち込んでいました。新規客がたくさん獲れたと喜んでいる場合ではありません。

一般にリピーターに対する販売コストは、新規客の5分の1と言われますから、新規客の構成比が高い当社は販売コストも増大するわけです。
コバックなど車検を大量に販売している専門店に聞くと「7割、8割のリピートは当たり前」と言います。

しかし、リピート率が低いまま台数を増やそうとした当社は、過大なエネルギーとコストを浪費する悪循環に陥り、さっぱり収益性が改善しません。思いあまって専門の担当者を任命し、電話コールを徹底しましたが、それでもやっと5割くらいです。
そこでコール担当者から状況を聞いたり、顧客アンケートの調査結果をチェックしました。するとリピート率の低さの原因は、販売促進活動などでカバーできない問題、つまり、顧客満足度の低さにあることが分かりました。
恥を忍んで申します。

以前から気にはなっていたことですが、我がSSは忙しさにかまけてお客様をないがしろにする接客が目に付いていました。車検のお客様が来店しても、にこやかに挨拶もできない。どこへ行けば受け付けをしてくれるか分からず、ウロウロ迷っているお客様。それに気づいても一声かけるでもなく、チラ見して通り過ぎるスタッフ。10分も待たせておいて「お待たせしました」の一言もなく、平気で用件を切り出すスタッフ。まるで「売ってやっている」と言わんばかりの対応です。
もちろんすべてが、こんなひどい対応ではないでしょう。しかし、たまたま私が目撃した状況は、普段もよく見られる姿なのだろうと思います。

商品の魅力に惹かれ、一度は購入していただいた新規客の多くが、あまりの不満足のために裏切られた気分になり、「もう二度とこの店で買わない」と思ったのでしょう。


人間力は強化できるのか

サービス業としての資質・接客態度・気配り・・・。要は「人間力」が弱体化しているのです。
SSスタッフを責めることはできません。実は私自身も、いつからか「人間力」をあきらめ、ないがしろにし、「人間力」に頼らない売り方を模索したのです。
いったい新人を一人前に育てるのに、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。

こんな話を聞いたことがあります。司法試験や公認会計士など難関試験を突破するには6,000時間の勉強が必要だそうです。6,000時間あれば「医者でもパイロットでもプロゴルファーでも何にでもなれる」と。
1日5時間半の訓練を3年間続ける計算です。「石の上にも3年」とはよく言ったものです。
でも、SSの業務はそこまで難しくありません。接客や軽整備など一通りできるようになるには1年(2,000時間)くらい、時間にしてそれくらい費やすと一人前になると言います。

当社SSはこの18年間で、社員とアルバイトを含めて1,000人以上を採用し、研修してきました。しかし、一人前にならないうちにどんどん辞めます。そしてまた募集・採用の繰り返しです。まるで「賽の河原の石積み」のごとき苦行です。
「颯爽と店頭にスタッフが配置され、意気揚々とお客様に接する」そんなSSを夢見るものの、ついぞ実現せず。そのうち少子高齢化の波が押し寄せ、スタッフの「質」どころか「数」の確保さえもままならなくなってしまいました。

そして私は、早々と「人間力」の強化を投げ出してしまいます。
セルフ給油のように「油外も自動販売機で売れたらいいのに」と本気で考え、「MV・P・R」の徹底にどんどん突き進みます。
でも考えてみれば当たり前ですよね。
いくら安くて美味しいレストランでも、店員さんの態度が悪かったり、店の清掃が行き届いていなかったり、グラスの洗い残しがあれば、私だってもう二度と行きません。

サービス業のパワーは「人」が大部分を構築するものであるにもかかわらず、マーケティングを過信し、商品開発と販促の力技だけで押し切ろうとした、そのツケが回ってきたわけです。

最小律の法則

今さらながら「接客」の勉強を始めました。
石油元売会社や石油組合が行う研修ではなく、一般的な接客研修に参加してみました。曲がりなりにも18年間、SSのトップを張ってきたという自負はあったのですが、そんなものはすぐ吹き飛びました。
何しろ初めて聞くことばかりで目から鱗(うろこ)、今まで悩んでいた疑問の数々が次々に氷解していきます。
特に印象に残ったことをいくつか紹介します。

まず「最小律の法則」というドイツの化学者が提唱した考えです。植物は成長過程でいくつかの栄養素を必要とします。そのうち最も少なく与えられた栄養素に、成長や収穫量が影響されるという法則です。

つまり、最も低いレベルが全体のレベルを決定づけてしまうのです。100本のパラの花束の中で1本だけ花が枯れていれば、その花束の価値はゼロになるというのです。SSも同じです。99人のスタッフが100点満点のサービスをしても、一人だけ30点のサービス、だったら、そのSSの接客レベルは30点と見なされます。ましてや、多くのスタッフが新人並みの我がSSは、お客様の目にどう映っていることでしょう。ああ恐ろしや。

人を選べる時代は終わった

接客研修ではまた「人を選べる時代は終わり。日本でもうそのような時代は永遠に来ない」と言われました。
人を育成することをあきらめ、経験者や適性のある人を採用しようとし、募集しても来ないと嘆いていた私は、ガツンと殴られた気持ちです。なるほど、「人を選べる時代は終わった」のなら、今いる人、出会えた人を何が何でも鍛えて、使えるようにするしかないわけです。

そんなことはとっくに承知しているのが日本マクドナルドです。
若いピチピチしたスタッフがそろっていたのは過去の話。今は何と最高齢83歳の女性までが店の戦力になっているそうです。
また東京のある飲食チェーン店では、何と全体の6割、180人の外国人アルバイトが活躍し、とても繁盛していると言います。

ここは一つ私も考えを改め、腰を据えてスタッフ教育を施すことにしました。当社は中小企業ですから、社長の私が途中で投げ出しさえしなければ、必ず効果が現れるはずです。
ーと決意した矢先、昨年末に整備士が2人退職しました。それぞれに止むを得ない事情があったのですが、整備工場に大きな穴が開きました。差し迫った問題は「3月の車検」です。
昨年3月は777台の車検を実施しました。実はもっと多く獲得できたのですが、これが整備キャパシティの限界だったのです。今年3月は1,000台の獲得を考えていますが、とても整備士が足りません。

そこでさっそく募集しました。
昨今はカーディーラーでさえ、メカニック不足で悲鳴を上げているというある記事を読み、不安でしたが、それでも5名の応募がありました。以前であれば不採用にしていたかもしれない、40代、50代のおじさんたちです。
不思議ですね。「人を選べる時代は終わった」と悟った今、こんなご時勢によくぞ我が社に応募してくれたと感謝する自分自身がいることに驚かされます。
全員採用しました。

実は中高年パワーが侮れないことは私も気づいていました。
昨年、車検を倍増しようと、それこそ「MV」と「P」を徹底的に強化し、新人でも「P」ができる仕組みを作りました。そして「P」を実施する人を大量に募集しました。でも、採用して数カ月が経った今、たくさんの人が辞めてしまいました。しかし残っている人の中に50代が混じっています。



グラフを見てください。
今ダントツに活躍しているのが、この50代の新人です。300件以上の車検予約を獲得してくれました。

彼は不動産会社出身でSSはズブの素人。高校生の子どもが2人いて派遣先を切られ、切羽詰まって我が社に応募したそうです。家族のために猛烈に頑張ってくれています。20代、30代にはないハングリーさが彼にはあります。これから、もうひと花もふた花も咲かせてほしいと、私も心から願っています。

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