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増田信夫の油外放浪記  MIC社長増田信夫 第58回 作業に逃げるSSに「販売特殊部隊」を投入してみた

今期の計画はガソリン粗利ゼロ

当社は7月から新しい事業年度となりました。28年前にマンションの一室で数人で始めた会社ですが、よくぞ生き残ったものです。
私がSS業界に関わるようになった頃、「月刊ガソリン・スタンド」誌に「リッター5円のSS経営」という連載企画が掲載されていました。当時、大手SS特約店の専務だった岡本正さん(後のケーヨーホームセンターの設立者)の記事です。

ガソリンマージンが5円/Lというのは、当時、誰もが考えの及ばなかった世界です。岡本さんはカーケアセンターを中核としたビジネス構想について述べられていたと思いますが、「この人、凄いこと言ってる!」と衝撃を受けたものです。
それが今や、ガソリンマージン「ゼロ」を前提とした事業計画を立てることになるとは・・・。
隔世の感があります。

今や一部の特権的なSSを別にすると、ガソリンだけで食べていくことは不可能な時代になりました。
多くのSS経営が崖っぷちの状態です。閉鎖・撤退・転業できる会社はまだ幸せです。しかし、当社はそのどれをも受け入れるわけにはいきません。

昨年はL当たり1.5円の事業計画を立てましたが、今期は「ゼロマージン」で成立するようにせざるを得ません。そのためには5カ所の直営SSで「1億円の油外増益」が不可欠です(グラフ1)

直営店の中には、店長の「人間力」を武器にバランス販売を志向してきたSSもあります。しかし、それも伸び代に限界が見えてきました。やはり「ヒト」「モノ」「カネ」を集中した重点販売が必要です。
そういうわけで、当社は油外収益の50%以上を車検によって獲得する計画です(グラフ2)


車検の壁は処理能力とスタッフ

さて、今年は初頭から車検倍増計画「GET8000活動」に取り組んでいることを、本連載で紹介してきました。その目論みは試行錯誤を重ねながらも、何とか達成ライン上を推移しています。
が、ここで2つの課題が浮上しました。おそらくこれは読者の皆様もお悩みのことだと思います。

まず処理能力の壁、次いでスタッフの行動量の問題です。この2つによって発生する機会ロスは無視できません。この解決なくして「ゼロマージン」体制は成立しません。
5カ所のSSのうち、仲町台SSと茅ヶ崎SSは直営の指定工場で整備と検査を実施しています。残り3カ所(平塚SS、寒川SS、所沢SS)は、認証工場であるSSで点検と整備を実施し、検査は陸運事務所で実施しています。

指定工場なら、24時間いつでも自由に作業できるため、無理が効きます。しかし、認証工場は陸運事務所の受付時間(すなわち平日の日中)に制限があるため、作業工程上、「せっかく予約を獲ったのに入庫できない」状態が生じてしまいます。

また平塚SSは、認証工場といってもピットスペースが極端に狭く、大型車だとブースからはみ出てしまう始末です。リフトも1基しかなく、ときどき油圧ジャッキを併用するなど、設備上の制約が作業効率を阻害しています。
そこで急ぎ、寒川SSを指定工場化するよう申請しました。
寒川SSと平塚SSは比較的近いので、両SSのキャパシティーが増すことを期待しています。

さて、もう一つは人の問題です。「GET8000活動」に伴い、車検実績はどのSSも増えました。特に1~3月は新しい商品・販促・オペレーションの導入キャンペーンの時期でしたから、本社が相当に関与しました。本社スタッフも毎日交代で各SSの店頭に立ち、車検予約の獲得に奮闘しました。
こうして活動の基礎が固まった段階でSSに任せました。すると4月以降、明らかに実績が低下しています(グラフ3)


「指揮官先頭!」とばかりにベテランスタッフを叱咤激励し、車検予約獲得のプロセスを再三再四にわたり徹底してきましたが、行動が伴いません。なかなか難しいものです。
ベテランスタッフにも言い分があります。

「点検整備・メンテナンス作業・業者対応・事務処理など、われわれは、昨日今日入ったスタッフには任せられない高度な仕事をやっている。車検の声掛けなど、新人やアルバイトがやるべきことだ」
一方で、新人やアルバイトにも言い分があります。「洗車の拭き上げ、顧客のアテンド、店舗の清掃、レンタカーの受付や車両手配など、先輩に言い付けられてキリキリ舞いです。雑用に追われながらも車検の声掛けは頑張っているんですが・・・」
SSスタッフの心情はこんなところでしょう。

お客を見つける難しさ

ここで商品販売の問題を整理してみます。販売には次の「5つのステップ」があります。
 ①見込み客の発見(必要性を発見する)
 ②必要性を認識してもらう
 ③商品を提示する
 ④注文を受ける
 ⑤作業する、納品する

これを分かりやすく言うと、「見つける」「口説く」「こなす」ことになります(表1)

私は貧乏学生だったころ、「日給日払い」に魅かれて、消火器のセールスをしたことがあります。消化器の商品情報をしっかり頭に叩き込み、片っ端から個別訪問しては「消防署の方から来ました」と常套句を連呼しました。1週間かけて大きな団地を軒並み回りました。しかし、1件も取れません。結局1円も手にすることができませんでした。
せっかくの商品知識も、お客様を「口説く」までに至らず、まったく出番がありません。つまり見込み客を「見つける」段階でエネルギーを消耗し、ヘトヘトになってしまったのです。
この苦い経験から私は、見込み客を見つけることから始めなければならない訪問販売がいかに大変か、そして、見込み客の方から来てくれる店舗販売はいかに合理的か、身にしみて悟ったわけです。

SSは店舗ですから、お客様がガソリンを求めて来店してくれます。いわゆる「ほっとけ販売」です。
私がSS運営を始めたころ、油外商品も「ほっとけ販売」ができないかと意気込み、店舗力・商品力を強化し、販促を駆使しました。しかし、ことごとく失敗しました。数年前に始めたレンタカーだけが唯一、「ほっとけ販売」で売れる希有な例です。

他の自動車関連業態に比べ、SSは高頻度の「顧客接点」を持つ優位性があります。しかし、多くの油外商品は訪問販売と同様、「見込み客を発見する」苦労から逃れられません。
つまり、SSの「顧客接点」を生かすには、使命感を持ち、優れたリーダーシップを発揮する店長の存在が不可欠です。言うのは簡単ですが、難しい問題です。このため、SS業界では何十年も同じスローガンが唱えられてきました。

「車検特殊部隊」の投入に光明

「見込み客発見」の苦労をなくすため、当社もSSに車番認識システムを設置しています。
スタッフが、目視したりボンネットを開けたり顧客にヒアリングをしなくても、機械が見込み客を発見してスタッフに教えてくれます。

問題は、それでもスタッフの行動が徹底しないことです。なぜでしょう。
SSスタッフの行動を「能動的」と「受動的」に分けて整理してみました(表2)

「受動的行動」は、実行しなければお客様から叱られます。会社からも厳罰に処せられます。
逆に、やった分だけお客様から褒められ、会社からは評価されます。
「能動的行動」は、実行しなくても叱られません。会社の評価も曖昧です。専門技術や知識が不要なので誰でもできます。誰でもできるので「新人やアルバイトの仕事」「レベルの低い仕事」と見られがちです。
こう考えると、スタッフの行動管理が甘くなった途端に「受動的行動」に偏ってしまうのは当然です。

そこで当社では、車検の販売行動だけを専門に行う「特殊部隊」を投入しました。
他の業務は、一切教えず行動させず、車検の見込み客が来店した時だけ、能動的行動をするために新たに採用した「車検受注専門アルバイト」です。

グラフ4は、車検予約の獲得数と獲得率の個人別分布です。
右上に向かうほど行動量が多く販売スキルが高い人です。獲得率が高いのに獲得数が少ない人は、ほとんど「ほっとけ販売」で受注したものでしょう。


これを見ると、特殊部隊の実効性は明らかです。凄まじい勢いで商談し、高い確率で仕留め、1人で150件、200件を獲得する猛者(アルバイト)もいました。強力な商品力、店頭演出やエリアマーケテイング、そして、顧客接点と店頭活動が見事にかみ合うようになったわけです。

彼らの活躍を見るにつけ「SSという業態もまだまだ捨てたものではないな」と改めて意を強くしています。

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