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増田信夫の油外放浪記  MIC社長増田信夫 第45回 原点回帰DM復活で車検の巻き返し

SS運営5号店がスタート

当社は6月1日、神奈川県で新たなSS運営を始めました。
敷地面積は700坪のセルフSSです。同時8台給油が可能でリフト3基の立派な店舗です。これを他社から運営継承し、店名を「オートキヨスク寒川」としました。
このSSは、かつては燃料油を月間450kl販売し、また、油外租利は同400万円を稼ぎ、堂々たる実績を残していました。ところがその後、ガソリンマージンは激減し販売競争が激化、このため、来店促進やカーケア販売にかかる経費を切り詰め、さらには人員を削減し、縮小均衡のスパイラルに陥りました。

対岸の火事ではありません。
当社を含め、多くのSS企業が辿ってきた道だと思います。当社はまず、運営継承するに当たりこの負のスパイラルを断ち切らなければなりません。
当社はマーケティング会社でもあります。SS企業に販売促進策を提案し、その費用対効果を高めることを生業(なりわい)としています。 しかし、業界環境が変化するにつれ、いかにコストをかけずに油外収益を上げるかが求められるようになりました。

コスト削減の風潮は、セルフSSの登場により、さらに拍車がかかりました。フルサービスSSは給油業務の延長線上で人海戦術を駆使すれば、それなりに油外商品が売れます。一方、セルフSSの場合、せいぜい3~4人のスタッフが無理なく接客し、それでいてなお、売れる仕組みが求められます。
ポイントカード、車検販売の標準化、オイル交換から追加整備を獲得する方法など、いろいろなことを試し、検証し、提案してきました。やはり売るためには顧客ごとのニーズを知らなければなりません。

顧客管理によるワンートゥー・ワン接客やダイレクトマーケティングが有効です。この顧客管理を省力化するため、当社は車番認識システムを生み出しました。
このようにして蓄積した販売ノウハウや開発したシステムを寒川SSでも存分に活用しようと思います。ただ、SS業界全体がコスト削減に邁進する中 で、いつの間にか廃れてしまったもの、忘れ去られたもののなかにも意外と有効な方法論があるかもしれません。
そういうわけで今回はSSの環境変化と当社の変遷を振り返ってみたいと思います(表1)

自由化前後の10年間を検証

私が1986年に会社を設立した頃、会社を支えたのは「ガソリン販促」です。96年3月末に「特石法」(輸入自由化等の規制)が廃止されるまでの10年間はこれで食べていけました。
当時のSSは「掛売客」が大事なお客様でヽ一見客(現金フリー)は軽視される風潮がありました。
昔は、米屋も酒屋も呉服屋も、お得意先のご用聞き、配達、集金が主な仕事でしたが、SSにも変わらぬ世界がありました。

しかし、オーナードライバーの増加に伴い、「現金客」を囲い込むと面白いようにガソリンが増販できたものです。そこでイベントやモノクレ商法で現金フリー客に強く働きかけ、さらに個人情報を記入してもらい、会員カードを渡したり再来店促進のためにダイレクトーメール(DM)を発信するという一巡の増販プログラムが大ヒットしました。
「顧客リストを1件獲得すると10L増販できる」という法則が全国どこでも通用しました。
ガソリン需要が堅調な伸びを示していた時代でしたし、燃料油口銭をそれなりに稼ぐことができたので、L当たり3円ほどの販促費をどのSSでも捻出できました。

そのうち、元売各社が組織的に現金会員カード戦略を打ち出しました。ですが、それが行き過ぎた結果、各地で過剰な販促や価格競争を引き起こす一因ともなりました。
モノくれ競争は「特石法」廃止後もしばらく続きました。しかし、当社はいち早く方向転換する必要性を感じ、実証実験の場として自らSS運営に乗り出したわけです。

1995年末、直営1号店をオープンしました。まずは増販プログラムを基本通りに実施し、現金販売100%の量販SSづくりに取り組みました。ただし、「特石法廃止」による競争激化が予想されていたため、油外販売にも本格的に取り組み、そのノウハウを構築してSS業界にフィードバックしようと目論んでいました。

着目したのは95年7月の改正車両法の施行(車検制度の見直し)です。97年に専門認証工場制度がスタートすると、いち早く取得しました。横浜市内のSSでは第1号でした。
車検に対しては当初、SSも元売会社も及び腰でした。しかし、当社が先行して実験し、失敗を重ねながらも「SSの車検」が成り立つことを実証しました。直営1号店は当時、月間250台の車検を実施しましたが、車検の獲得に会員化、DM、商圏告知といったガソリン増販の方法論が応用できることが分かり、これがまたSS事業者や元売会社から高く評価されました。

99年にオープンした直営2号店は小規模SSながら、車検を中心にL当たり50円もの油外収益を獲得するまでになりました。
その一方で、SS業界では98年にSSのセルフ化か解禁されました。しばらくは多くのSSは様子見でしたが、2000年頃から急速にセルフSSが増え始めました。時を同じくして、ガソリン需要の伸びは止まり減少に転じました。ガソリンマージンは減少し、閉鎖するSSが目立ち始めたのもこの頃です。
SS数は減りましたが、「残存者利益」は元売直営SSや大規模セルフSSに偏り、一般特約店にはその「おこぼれ」が回ってきません。 油外販売の前提条件である客数が増えなくなり、販売促進は「悪」との見方が大勢を占めるようになります。当社にも「販促をせずに収益を拡大せよ」と いう難度の高いテーマが求められました。

顧客にピンポイントで販売したい

当社は2004年と2005年に新たに1カ所ずつ、計2カ所のセルフSSの運営に携わることとなりました。この間、直営2号店もセルフ化し、フルサービスSSが1ヵ所、セルフSSが合計2店舗となりました。

まずは減販傾向に歯止めをかける。さらに油外収益を確保するため、「リスト獲り」を継続しようとしました。このため、アルバイトを店頭に配置したのですが、会員かフリー客かを識別するために給油客の手元を覗き込んでカードの有無を確認しているとお客様から叱られてしまうのです。これでは仕事がはかどりません。フルサービスSSと異なり、セルフSSは顧客との距離感が難しいですね。
そこで次に会員顧客の車のナンバープレートに小さなシールを貼りました。ところが商圏内で車両窃盗団が出現したのです。「狙った車のプレートにシールが貼ってあるらしい」なんて噂が流れてしまい、すぐに止めました。

結局、「セルフSSでリスト獲りは不可能」だと判断せざるを得ませんでした。2005年に個人情報保護法が施行されたことも心理的にブレーキをかけることになりました。
とは言え、「販促せずに売る」ためには、何とか顧客を識別したい。その一念から、お金と労力をかけて開発したのが車番認識システムです。この世に二つとない車番をID(識別子)とした顧客管理システムです。

顧客の名前や住所が分からなくても、車検が近い車、半年間オイル交換をしていない車などを識別してくれるので、少ない人員でもピンポイントで声かけできます。おかげで当社SSだけでなく多くのSSの油外販売に多大な貢献をしてくれるようになりました。

もう一つ、販売促進や販売活動をしなくても売れる油外商品の開発にも取り組みました。レンタカーがその代表例です。インターネットが販売してくれま すし、SSが兼業でやるため、安価に提供できます。予想以上にエンドユーザーから歓迎され、固定客(リピーター)が収益の安定を支えてくれます。SSの新たな事業軸になっている企業が現れました。

業界の販促自粛におもねりすぎた

それはそれで良かったのですが、当社SSの車検獲得台数は減少しました。
かつて当社は、直営1号店だけで毎月250台の車検台数を誇っていました。しかし今や、直営4ヵ所のSS合計で400台。1力所平均100台です。客数減少や競争激化といった要因はありますが、「販促をせずに売る」ことに傾注しすぎた結果だと思います。

全盛期にやっていたことを思い起こしてみました。当時は車番認識システムこそありませんでしたが、①リスト獲りの徹底、②毎月3000件の車検DMを発信、③商圏内には折り込みチラシを配布、④ミラーリングの実施、⑤店頭では車検ステッカーを確認して声かけをする、といったことを実施していました。実にいろいろとやったものです。

当時の車検客のアンケート調査結果を見ると、当社の車検を選んだ理由のダントツ1位が「DM」でした。DMは、車検を実施する店を選ぶうえで大きな動機になっていました。リスト獲りはガソリン増販だけでなく、車検獲得でも大きく貢献していたのです。

先日試しに「現在、どれくらいの数のDMを発信しているのか」と聞くと、店長以下、誰も知りませんでした。本社事務スタッフに確認してやっと分かりました。その数はわずか100件!リスト獲りをしなくなったため、いつの間にかリピーターにだけDMを発信するようになっていたのです。

車番認識システムは、SS店頭での販売活動には大きな力を発揮します。ラグビーに例えるとフォワードがめちゃめちゃ強力になります。しかし、販促費を惜しんで来店客リストを取らなくなるとバックスが弱体化した、非常にアンバランスなフォーメーションになってしまいます。
試しにフルサービースの仲町台SS(直営1号店)でリスト獲りを再開してみました。何のことはありません。昔と同じく8割のお客様は抵抗なく、住所・氏名を記入してくれます。
私は考え方を改めました。コスト削減の業界世論におもねり過ぎたと反省しています。

ガソリンそのものに販促費を投入することは、もはや意味を失いつつあります。しかし、収益性が高く需要がある商品であれば、販促費は生きます。販促費を区別することなく、いたずらに「販促は悪」と考えてはいけません。
実際のところ、車検専門店もカーディーラーもDMやチラシの絨毯爆撃を継続しています。彼らにとってSS業界の販促自粛は、さぞおいしい状態であったと思います。

リスト獲り復活で車検反転攻勢へ

そこで前出・5号店の寒川SSでは「原点回帰」します。
ここはセルフSSですが、リスト獲りをし、メンバーズカードを発行し、DMを発信します。店頭で会員とフリー客を識別するために車番認識システムを活用します。

車番認識システムを導入した多くのセルフSSのデータを見ると面白いことが分かります。
 ①フリー客に対して何もしなければ、再来店する確率は10%程度。
 ②フリー客に何らかの値引き券を配布すると、再来店率は25%前後。

もしもお客様の購買行動が昔と変わっていなければ、これにDMを組み合わせれば50%以上の再来店が期待できます。さらに再来店した顧客の50%は固定化します。
ざっくり計算してみました。全盛期の顧客数に戻したいと皮算用しています(図1)

客数が増えれば、洗車やオイル交換などが連動して増えます。そして、車検やレンタカーには販促費を投入し、店頭活動をしっかりバックアップしたいと思います。
寒川SSの位置する商圏は、農家の多い歴史ある町です。果たして、新参者の当社がこうした活動で顧客の支持を得ること ができるのか。本連載でも今後報告していきたいと思います。

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